虎ノ門
寅の方角、すなわち東北東にあるなら分かるが、虎ノ門は江戸城の南側だ。気になって調べてみると、この「虎」は白虎を指すという。
四方を守護する四神、すなわち北の玄武、東の青龍、南の朱雀、西の白虎から、城の西を守る門として「虎ノ門」となった。要するに平安京の朱雀門と同じ発想ということだ。
しかし、これも腑に落ちない。虎ノ門は江戸城の西ではなく南だ。南西と言えなくはないだろうが、それにしても不自然に思える。
さらに調べると、面白い説に行き当たった。江戸の地を、強引に四神相応に当てはめた結果だというものだ。
四神相応とは、北に玄武を宿す山、東に青龍を宿す川、南に朱雀を宿す澤、西に白虎を宿す道、を擁することを言い、こうした土地は栄えると考えられた。
例えば京都は、船岡山、鴨川、巨椋池、山陰道をそれぞれ四方に抱いていることで、四神相応の地とされたという。
江戸をこの考え方に当てはめた時、何が玄武と見立てられたか。この説では、それは富士山だったとする。
富士山は江戸の北ではなく、遥か西方にある。これを玄武とすると、他の三方も全て方角がずれることにはなるが、時計回りに平川、東京湾、そして東海道と要件は揃う。江戸城から東海道に繋がる門は、まさしく虎ノ門の名にふさわしいことになる。
この説が正しいかどうかは知らない(虎ノ門の由来には諸説あるようだ)が、京都から来た人間にとっては腑に落ちるところもある。
京都と比べた時、東京の街は、「歪んでいる」ように感じる。道がまっすぐ伸びておらず、正しく東西南北を向いてもいない。皇居やその周辺の街ですら、「斜め」に作られている。
京都や奈良のように、定規で引いたように作られた街並みはむしろ特殊ではあるだろう。しかしそれにしてももう少し……と思っていたが、こう考えれば理解できる。
東京の街は、はじめから宇宙そのものが「まっすぐ」ではなく「歪んで」いるのだ。通常の東西南北ではなく、その独自の秩序の方に物差しを合わせれば、この街も京都のように理路整然とした街並みに見えるかも知れない。